2019/07/24

「銀河鉄道の夜」(宮沢賢治)を読んで【中学生用】

 夜、空を見上げると無数の星たちがまるで合図でもしあっているかのように輝いています。ジョバンニも、銀河鉄道に乗った夜、このように無数の星たちをながめていたのでしょうか。
 私はこの夏休みを利用して、家族と一緒に岩手県にある「宮沢賢治記念館」 に行ってきました。そこでは、さまざまな賢治が私たちを待っていました。賢治は、作家であると共に歌人や詩人でもあったし、地理、天文学の知識も人並み以上にありました。
 賢治の有名な詩、「雨ニモマケズ」 の中の一節では・・・
”東ニ病気ノコドモアレバ
 行ッテカンビョウシテヤリ”
”ホメラレモセズ
 クニモサレズ
 サウイフモノニ
 ワタシハナリタイ"
と記されています。
 自分の死を悟り、最後の思いをメモ帳に託した・・・。記念館には直筆のメモ帳が展示してありました。私はその詩を長いこと見つめていました。賢治の文字一つ一つを見つめていると、賢治の思いがひしひしと伝わってくるからです。文字がまるで、賢治の果たせなかった願いを代わりに果たしてほしいと言っているように感じたからです。この時私は、「賢治の作品を読んでみよう。」そう思ったのです。
 銀河鉄道は北十字星から南十字星までの間さまざまな星を通ります。夜の夜空には一つのまちがいもなく、実際にその話の進行通りに星座が並んでいるのです。
 二十一世紀の宇宙観、幸福感。そんな賢治の世界に、今、皆が気付き出しました。皆が「銀河鉄道」に乗りたがる・・・。そんな状況が今日のような気がします。
 銀河鉄道の中でこう言っています。「何が幸せか分からないのです。本当にどんなつらいことでもそれが正しい道を進む中での出来事なら、峠の上り下りもみんな本当の幸福に近づく一足づつですから。」
 燈台守の言ったこの言葉に私はひどく心を動かされました。「幸せ」私がそう感じるのはいつも自分が何かを得た時だけでした。人につくして、「幸せ」と感じることはなかったように思えます。それどころか私は、「仕方なくやる」という義務感さえ感じていました。それなのに燈台守は苦しみに到る道さえ幸せと感じているのです。いったい幸せとは何なのでしょうか。
 宇宙空間を走る銀河鉄道。この汽車には、友人ザリネのために死んだ・・・。そうです。 燈台守の言った幸福をつかんだカムパネルラが乗っていました。そして、後からこの汽車に乗ってくる人たちも、燈台守の言った幸せをつかんだ人たちでした。この汽車は、幸福な死者を天上へと導くためのものだったのです。
 「ぼくはあのさそりのように本当の皆の幸せのためならぼくの体なんか百ぺん灼いてもかまわない。」 汽車の中に二人きりになった時、ジョバンニはこう言います。ジョバンニにこう言わせたのは、汽車の中で出会った数々の人たちでしょう。
 船がしずんで死んでしまった人たち。燈台守。そしてカムパネルラ。この人たちの一つ一つのエピソードが、ジョバンニの心の中を少しずつ、少しずつ、清らかなものにしていったのでしょう。そして、本当の「幸せ」の意味を知ることができたのです。そしてカムパネルラは、本当の幸せに目覚めたジョバンニとはいつか天上で再び出会えると安心して、一人旅立ったことでしょう。
「本当の幸せ」。作者がジョバンニを通して、私たちに教えているのはこのことだと思います。「本当の幸せ」それは「皆のためにつくす」ことだったのです。このことに気付かない限り、自分自身の真の幸福はなく、又世界の幸福はあり得ない。自分の欲望を捨て人のためにつくして心から満足出来る日を、あなたは迎えることが出来ますか。この本は私にこう問うているように思えるのです。
 考えてみると私は、家でも学校でも決して一人ではありません。家には父がおり母がおり妹がおります。だとすれば他の人とのかかわりなしに生きていくことなど出来ないはずです。そんな中で私は今まで人に何かをしてもらうことだけを考えていたような気がします。しかし、賢治の考える幸せはもっと深いものでした。
 私は今、その「幸せ」が分かりませんが、将来母となったら、その「幸せ」の意味が分かるでしょうか。そう思うと、中学生になった今年、この本に出合ったことがとてもすばらしいことのような気がしたのでした。
 今夜も無数の星たちと共にカムパネルラが、地上の私たちに早く幸せになってと笑いかけているような気がします。

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