2019/08/13

『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海)を読んで【高校生用】

 私は私自身をマネジメントしようと思った。本来「マネジメント」とは、企業などの組織における管理や経営のことを示すから、この決意は理解されにくいかもしれない。でも私は、「私」という人物は複雑で多様な感情から成立している一つの組織であると考え、自分をより高めるために「マネジメント」しようと思ったのだ。
 私がこの本を手にとった理由は、野球が好きで興味を持ったからという単純なものだった。私は小学六年生の時から摂食障害と闘っている。食事が全くできなくなり、水分をとることも辛くなった。長い入院も経験し、死の危険にもさらされた。自分の存在を見失い、生きていることが嫌になった時期もあった。今は随分食事ができるようになり、回復してきてはいるが、完治はしていない。同級生に比べて体は極端に小さいし体力もない。
私は病気を治すために自分に何が必要かを考え続けている。そんなある日、この本と出会った。
 主人公のみなみはある高校の野球部のマネージャーで、自分のチームを甲子園に連れていくことを目標としていた。みなみはピーター・F・ドラッカーの著書『マネジメント』と出会い、本に従って野球部をマネジメントしていく。私は一度読み終えた時、「これはもしかして私に適応するのではないか・・・。」と思い、もう一度、野球部と自分を重ねながら読むことにした。
 マネジメントは『組織の定義づけ』から始まる。それには「顧客は誰か」を考える。みなみは、野球部にとっての顧客は野球部に協力してくれている全ての人達、そして野球部を成立させている『野球部員』であり、野球部は『顧客に感動を与えるための組織』だと定義した。だから私は、私にとっての顧客は、私を支えてくれている人達――家族・友達・先生、そして私自身も顧客だと考えた。
 みなみはマーケティングを行うために、顧客、すなわち部員の現実・欲求・価値を引き出そうとする。私も「私の顧客が求めているものは何か」を考えた。そこで行きつくのは、やはり「元気でいること」なのだ。私の家族も私自身も、私の病気が完治することを願っている。この欲求を満たすために、私は病気にうち勝たなければならない。これが私のマーケティングなのだ。
 みなみはイノベーションにも取り組む。私はイノベーションしたいことがある。一般的に私の病気は、精神面・身体面の両方が絡む複雑なもので、完治するには十年単位かかると言われている。これをどうしても覆したい。一日も早く病気を治し、この病気に対する一般論をすて、イノベーションを起こしたい。みなみ達が『送りバント』と『ボール球を打たせる投球術』をすてて革新していったように。
 読み進めるうちに、私はマネジメントの役割を既にいくつか実践していることにも気付いた。それは「働く人を生かす」ことと「社会の問題について貢献する」ことだ。私は自分の病気を理解する為に身につけた栄養学的な知識を利用して、母の毎日の食事作りや献立作りを手伝っている。これが私の能力を生かすことにつながっていると思う。また、病気になったことで、病気や障害を抱える人達の気持ちを理解できるようになり、今は、知的障害や発達障害をもつ子供達に関わる仕事がしたいという夢をもって勉強している。これが、社会の問題に貢献することにつながるのではないだろうか。
 みなみは甲子園出場をかけた決勝戦の日に、大切な親友、夕紀を失ってしまう。私は、みなみがここまで野球部を成長させたことで夕紀は感動に満たされ、満足したから、後悔なくこの世を旅立ったのではないかと感じた。
 みなみ達は見事甲子園出場を決める。このことだけでも十分顧客に感動を与えたに違いない。この本にはその先のことは書かれていないが、選手達はさらに多くの感動を与えるため、きっと勝ち進んでいくだろう。
 ある日私は、母から嬉しい一言を聞いた。
「麻紀が前よりずっといろんな物が食べられるようになって嬉しいよ。感動したよ。」
私は本当に少しずつではあるが、病気に勝つ為に一歩一歩進んできた。何も食べられず二十四時間の点滴をしていた状態から、一口、二口とだんだん食べられるようになり、少しずつ回復してきた。それが顧客の一人である母に感動を与えていた。私の事業が成果を出していることが分かり嬉しくなった。だから私も、さらなる感動を与えるためにもっと前進しよう。完全に病気を克服し、私のマネジメントを成功させるために。
 私はもう一度自分と向き合おうと思った。顧客であるみんなが、そして私自身が、価値ありとし、必要とし、求めているものは何か・・・。それに向き合うことが、病気にうち勝ち、自分をより成長させるためのステップなのだと、この本が教えてくれた。