2019/08/13

『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健)を読んで【高校生用】

 自分のことが好きだ、今の自分を受け入れられる、そう言うことができる人はどのくらいいるだろうか。私にはそんな自信はない。おもしろい人、運動ができる人、勉強が得意な人、自分に無い能力を持った人を見ると羨ましい、という感情が溢れ出す。今の自分を捨てたいと感じる。こんなみじめな底無し沼から誰か助けてくれないだろうか。そう思ったからこそ青年は哲人のもとを訪れたのではないだろうか。
 「嫌われる勇気」という本の題名に目を奪われた私は一人の青年として物語の中に入っていった。嫌われる勇気?それは一人孤独に生きろということなのか。そんなものが幸福につながるはずがない。
「嘘だ!そんなものは学者の詭弁にすぎません!」
 アドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言している。対人関係の中で傷付くことを怖れ、自分の思い描く行動ができないからそれが悩みになる。たしかに、この世界に誰もいなければ他人と比べることがなくなる。そうすれば劣っている、優れているといった評価もなくなる。しかし世界に誰もいなくなることは不可能だ。ということは一生悩みに囚われ、不安の中で生きていかなければならないのであろうか。
 そもそも自分のことが嫌いだと感じるのは劣等感を抱いているからだろう。しかし哲人は劣等感があるということが劣等性につながるわけではないと言う。劣等感とは他者と比較する中で自分が与えた価値、つまり「主観的な解釈であるのだ。」と。この話を読んだ私は同じような経験があることに気付いた。
 私は女子の中では背が高い。友達からは背が高くて羨ましいと言われることも多い。しかし私にとっては活かしていない長身であり、目立って嫌だという劣等感を抱く要素の一つだ。だが自分の身長について長所と見るか短所と見るかは自分次第なのだ。私はいつか祖母に言われた言葉をふと思い出した。
「胸を張って堂々と歩きなさい。」
 その言葉の意味が分かったとき、それは私の勇気へと変わった。背が高い。これが自己の個性だと思えば、それは幸福への一歩になると気付いた。
 けれども他者からの目や評価からは逃げられないのではないかと私は思う。そこで次に注目したのが哲人の言う「課題の分離」である。課題の分離とはその選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰なのかを考えることだ。他者を信じるかどうかは自分の課題、逆に自分からの信頼に対してどう行動するかは他者の課題だ。この課題の分離は私にとって衝撃的なものだった。しかし同時に心が軽くなるのを感じた。どれだけ人に好かれようとしても実際に他者が自分をどう見るかは他者の課題なのだ。それは自分ではどうしようもないものなのではないか。それなら好かれようと必死につくった自分ではなく、ありのままの自分を好きだと思ってくれる人を大切にするべきだろう。そしてこれこそが「嫌われる勇気」に違いない。
 ありのままの自分を好きだと言ってくれる人もいれば嫌いだと思っている人もいるだろう。けれどもその勇気さえ持っていれば本当に大切な人を見つけることができる。そんな人のために生きることを幸福と呼ぶのかもしれない。
 しかし勇気を持つということは難しい。難しいからこそ今、悩んでいるのだ。この本に勇気を持つ方法は書かれていない。だがこの本を手がかりにして考えることはできる。私にはとても印象に残った哲人の言葉がある。
「会場全体に蛍光灯がついていれば、客席のいちばん奥まで見渡せるでしょう。しかし、自分に強烈なスポットライトが当たっていれば、最前列さえ見えなくなるはずです。
「ああ、そうか」と私は胸のつかえが下りた気がした。過去は変えられない。未来がどうなるかも分からない。そう、自分の人生を選択するのは「今」しかないのだ。今を精いっぱい自分らしく生きることで勇気は身に付いていくのだ。
 私は高校生になってから今するべきことから目を逸らしていたように思う。周りのレベルの高さに圧倒され、やる気が出なくなった。しないといけない、そう分かっていても集中力が続かず今を丁寧に生きることができていなかった。けれどもこれからは違う。勉強や部活動、身の回りのこと、それらを一つ一つこなしていこうと思う。そうすればおのずと勇気を持ち、大切な人のために生きていける。そのことが自分を好きになる第一歩だ。「嫌われる勇気」とは孤独なものではない。ありのままを生きる勇気だ。今からでも遅くはない。
 私は私の人生を、今を、精いっぱい、一生懸命に生きて行こう。青年と同じ清々しい気持ちで私は本を閉じた。

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